
ロンドンの某アパレルで働き始めたばかりのときの話。
スーツ着て面接を受けた話のつづきになります。
大学生時代にカナダで1年間語学留学をしていましたが、それでもネイティブスピーカー並みに話せるようになったわけではありません。
言いたいことが完璧に言えるわけでもないし、言われていることも100%理解できているわけでもなく。
そういった言葉の壁もあり、働くことが本当に嫌でした。
仕事を始めたばかりの頃は、お客さんから質問をされても「少々お待ちください」と伝え、同僚を呼びに行くという技でその場を乗り切っていました。
しかし何度も何度も同じことを繰り返していくうちに、さすがに同僚も気がついてしまったんですね。
僕の問題が英語力だけでなく、洋服に関する知識が皆無だということも。
そうです、仕事が嫌いな理由は言葉の壁の問題だけではなかったのです。
アパレルで働き始めたものの、ファッションには驚くほど興味がありませんでした。
前回の記事でも説明した通り、もともとオシャレそうだからというしょうもない理由によりカフェで働こうとしたけど、連絡がこないから仕方なく友達に紹介してもらいアパレルで働くことになっただけでしたので。
だから洋服の知識なんてものは一切なく、なんなら日本語ですら説明できないんじゃないかっていうレベルでしたね。
それがついに見透かされてしまい、優しかった同僚たちの間で「そろそろ自分で説明できるようになってもらわないとね」という空気が漂い始めたのです。
たしかに、僕は甘えていました。
英語に関しては多少頑張ろうとは思っていたものの、洋服には全く興味が持てず頑張ることを放棄していました。
このままではダメだ。
思い返せばお客さんから聞かれることはどれも似たような内容のものが多かったような。
いくつかの説明パターンだけ暗記してしまえば、なんとかなるかもしれない。
それからというもの不器用ながらも自分で説明するよう心掛けました。
嘘のような本当の話で、自分で説明する機会が増えていくと話せることもどんどん増えていき、仕事も少しだけ楽しくなっていきました。
もう一つ嘘のような本当の話で、少し仕事ができたくらいで人間って調子に乗ってしまうものなんです。
劇的に仕事ができるようになったわけでもないのに、カスタマーアドバイザーとして上から目線で外国人のお客さんにアドバイスするようになっていましたからね。
ファッションセンスゼロのくせして、めっちゃ意見してましたから。
でも外国人ってそういうところありますよね。
というか、日本人が100%の確信を持っていないと意見ができない体質なのかもしれませんが、とにかく良くも悪くも僕は少しずつ変わっていきました。
そんな感じで仕事も順調にいっていたある日のこと。
一人のお客さんから質問をされたのです。
細かい内容までは覚えていませんが、普段質問されることのない少し難しめの内容でした。
以前の僕だったらここで同僚を呼びに行くところなのですが、コツコツと重ねてきた成功体験から自信を手に入れていた僕は、自分で説明してみることにしました。
一生懸命、身振り手振りを交えながらも上手くもない英語で説明していきます。
すると彼も真剣な眼差しで僕の話を聞いてくれているではないですか。
このときにほど嬉しかったことはありません。
人間やればできるんだって。
なんて充実したロンドン生活なんでしょう。
仕事を始めてわずか数ヶ月程度でここまでお客さんとやりとりできるようになるなんて思ってもいませんでした。
それも英語で、1㍉も興味のなかった洋服の話を。
この勇姿を親にも見せてあげたい。
なんて調子に乗る僕に、話を聞き終えた彼は真顔でこう言い放ちました。
「なんでお前みたいなやつがカスタマーアドバイザーなんてやってんだ。この店は人手が足りていないのか」
……。
核心を突かれ過ぎて何も言い返すことができませんでした。
それ以来、僕は英語と洋服が以前よりも嫌いになりました。
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